始めに
始めに
乾くるみ『塔の断章』についてネタバレ解説を書いていきます。
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語りの構造、背景知識
時間の前後の誤認、人物誤認
本作品は「塔の序章」「塔の断章」「塔の終章」からなります。「塔の断章」は「わたし」(辰巳)という等質物語世界の語り手により、「塔の序章」「塔の終章」は異質物語世界の語り(所謂三人称)によります。「塔の序章」で殺された女と、「塔の断章」で殺害され辰巳たちが捜査にあたることになった「香織」が同一人物であるように見せかけられていますが、「塔の序章」で塔から突き落とされたのは辰巳で、「塔の断章」は塔から転落している辰巳が見ている走馬灯です。香織を殺したのは辰巳で、辰巳を天童が塔から突き落としたのはその復讐です。
本作は辰巳のフラッシュバックを導入することで、時間の前後を誤認させるものと言えます。「塔の序章」パートは、辰巳の回想たる「塔の断章」に現れる香織の死とその調査よりも後の話なのですが、「塔の序章」で殺害された人物(辰巳)を香織と誤認させることで、香織の死とその捜査よりも前のエピソードであると誤認させられています。
時間の前後の誤認の類例
時間の前後を誤認させるトリックには我孫子武丸『探偵映画』があります。これは、冒頭で自殺した人物が、時間の前後の誤認トリックによって、事件のアリバイを担保されています。
物語世界
あらすじ
出版社の企画した、小説をゲーム化するプロジェクト。その中心メンバーとなった八人の男女が、出版社のオーナーである十河家の別荘に集まっていました。湖畔の風景を眺めるため、二階建ての別荘からそびえる尖塔。一同が別荘で夜を過ごした翌朝、イラストレーターとしてプロジェクトに参加していた社長令嬢が、その尖塔から墜落死しているのが発見されます。しかも彼女は、人知れず妊娠していました。
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