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京極夏彦『姑獲鳥の夏』ネタバレ、解説

京極夏彦
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始めに

 京極夏彦『姑獲鳥の夏』ネタバレ、解説を書いていきます。

語りの構造、背景知識

等質物語世界の語り手・関口の不確かな認識

 本作品のメイントリックは、等質物語世界の語り手・関口が、物語世界内の現実を正確に認識できていないというところです。クリスティ『アクロイド殺し』などと根本的に異なっているのは、語りの主体は故意に他者を誤解させようという意図のもとで虚偽の内容を語っているのではなく、無意識の抑圧が働いているために、現実を正しく認識できていないということです。似たような例としてフィンチャー監督『ファイト=クラブ』があります。『ファイト=クラブ』においてもそうでしたが、一応は読者に対して語り手や焦点化人物の認識が不確かであることがそれとなく語りの中で仄めかされてはいます。

 関口は、久遠寺牧朗の死体を知覚することができていませんでしたが、刺さっている刃物の輝きだけは意識していました。このような一人称的な認識の不確かさを利用するホラーにはH=ジェイムズ『ねじの回転』、デラメア「シートンのおばさん」、黒沢清『CURE』、伊藤計劃『虐殺器官』などがあります。

双子トリックと多重人格トリック

 本作品は双子の涼子と梗子という存在から一人二役を匂わせつつ、実際は涼子の精神の不安定さからくる涼子と京子の二重人格による一人二役というトリックになっています。双子という存在が、二重人格による一人二役のカモフラージュになっている点が新鮮です。

横溝正史リブートとしては…

 本シリーズは横溝正史からの影響が顕著で、太宰治や自然主義文学の様式や、横溝の先駆にあたるJ.D.カーのスタイルを踏まえ、旧家を舞台とする複雑な家族関係のもとでミステリーが展開されます。けれども横溝正史の冗長で悪いところも結構継承している印象で、J.D.カー作品のように、どれを読んでも読み物として機知と外連味に富んでいて面白いというのではありません。シリーズも『魍魎の匣』と本作が割合面白いだけで、尻すぼみです。

物語世界

あらすじ

 関口巽は久遠寺家にまつわる奇怪な噂について、中禅寺秋彦(京極堂)に尋ねることにしました。

 久遠寺梗子の夫で、関口らの知り合いである牧朗の失踪、連続して発生した嬰児死亡、代々伝わる「憑物筋の呪い」など、久遠寺家にまつわる数々の事件について、人の記憶を視ることができる超能力探偵・榎木津礼二郎や京極堂の妹である編集記者・中禅寺敦子、東京警視庁の刑事・木場修太郎らを巻き込み、事態は展開します。

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