始めに
始めに
今日は綾辻『時計館の殺人』について解説を書いていきたいと思っています。『館』シリーズの一作です。
背景知識、語りの構造
アリバイトリック、意外な動機
本作は殺人事件の起こる館の内部、外部のパートによって焦点化が異なりますが、犯人となる人物は(内外を行き来できるということから)時計館の管理人(=伊波紗代子)ということがあからさまになっていて、よってこの作品ではメイントリックは時計館の外に、殺人がなされた時刻にいた管理人がどうやって犯行が可能だったかというアリバイ崩し、時計館のデザインの理由という意外な動機に、作品の根幹があります。
時計トリック、異常心理
本作の根幹をなすのは、時計館と江南の身に着ける時計を利用したアリバイトリックです。本作では実は時計館の時計は狂っており、時間の進み方が速くなっているという設定になっています。その背景となっているのが、余命の短い娘の結婚の夢を叶えるために、館の時間で十六歳を越えさせて結婚させてあげたいと願う、過去の所有者の異常心理となっています。
時計トリックの類例には鮎川哲也「5つの時計」があります。本作は事件当日のアリバイを構成する5つの時計に示された時間がいかにしてズレていたのかが検証されていきます。こちらの作品と比べると、5つそれぞれについてそれぞれのアンサーが与えられたのに比較して、本作の時計は108ある時計館の時計と江南の懐中時計の実質2つだけですから、真相はやや見えやすくもなっています。それでも本作が魅力的なのは、やはり時計館という独特のロケーションの醸す魅力でしょう。ミステリとしてのプロットの因果的連なりが『迷路館の殺人』ほど豊かでなくても、読み物としての魅力は見劣りしません。
ゴシックホラー
本作は若干、シリーズの中でもミステリ色が希薄で、どちらかというと幻想小説風の装いとなっています。犯人当てや犯行手段のサプライズも希薄です。それでも時計館というロケーションが生む独特の空気が印象的なゴシックホラーです。
けれども新本格の作家は概して読み物としての強さというか、描写に弱さがあるので、本作品も広くホラーファンの心を捉えるかどうかというと微妙です。
物語世界
あらすじ
大手出版社・稀譚社の新米編集者・江南孝明は、友人での鹿谷門実を訪ねます。そこで彼は担当している超常現象を取り扱うオカルト雑誌『CHAOS』の取材のため、2人と因縁のある中村青司の建築した通称「時計館」に行くことを伝えます。江南は館に現れるという少女の霊について取材するため、3日間泊まり込みます。『CHAOS』の副編集長、稀譚社のカメラマン、霊能者、W**大学の超常現象研究会のメンバーらとチームを組み、彼らは「時計館」を訪れ….。
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