始めに
始めに
今日は『イニシエーション=ラブ』について解説レビューを書いていきます。
背景知識、語りの構造
トレンディドラマのパロディ
本作品はバブル期を舞台としており、トレンディドラマのパロディとなっています。叙述トリックとしては質素な作りでもありますが、特定ジャンルの慣習をうまく捉えて叙述に落とし込む手腕が卓越しています。その点『葉桜の季節に君を想うということ』に近いです。トレンディドラマやラブコメ全般によくみられるすれ違い、容易な恋愛の発展をパロディとして展開します。
ワットダニット(?)
本作の巧みな部分は、なんといってもまず何が謎であるのかが読者にとって自明ではないことです。叙述トリックのデザインに関してはしばしば類例のみられるものですが、分けても本作が卓越しているのは、そもそも本作品がなぜミステリなのかが当初から明らかではないのです。
本作は日常における謎を扱う作品で、殺人などの大きな事件は起こりませんが、それでも不倫という事件が陰で発生しています。
等質物語世界の語り手「僕」の二人一役と時間誤認
本作品は等質物語世界の語り手「僕」(二人の鈴木)による二人一役が使われています。『ロートレック荘事件』など類例もあり、この二人一役についてはそう珍しいものではありませんが、本作のメイントリックは実際にはsideAとsideBという二つのパートが、時間的に前後の関係にあるのではなく、時間的に同時期で平行関係にあるものだという事実の隠匿です。
この時間誤認トリックには類例として我孫子武丸『探偵映画』などがあります。
物語世界
あらすじ
「僕」こと鈴木は、友人の望月から代役で呼ばれた合コンで出会ったマユに心を惹かれます。その後同じメンバーで誘われた海水浴でマユと再会し、連絡先の電話番号を教えてもらいます。意を決して電話をかけたところ、デートの約束をなんとか取り付けます。デートを重ねるうちに「マユちゃん」「たっくん」と呼び合うようになった二人ですが…。
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