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綾辻行人『迷路館の殺人』解説、ネタバレ

あ行の作家
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始めに

始めに

今日は綾辻『迷路館の殺人』について解説を書いていきます。

背景知識、語りの構造

第二次の語り

 本作を特徴づけるのは、何と言っても第二次の語りを巧みに生かした多重解決の試みです。本作には「迷路館の殺人」という、本作のタイトルと同じ内容の作品が登場します。作中作「迷路館の殺人」は鹿谷門実が、自身の体験した過去の殺人事件をモデルにして著した作品ということになっているのですが、その作品を著した作者・鹿谷にはある目論見があったというサプライズがあります。

 作中作「迷路館の殺人」では、老推理作家・宮垣葉太郎が犯人とされているのですが、その第二次の語りの外では、モデルになった事件における実際の犯人は異なっていたと、「エピローグ」にて明かされます。

 異質物語世界の語りによって、作中作「迷路館の殺人」の登場人物・鮫嶋は性別が男性に誤認させるように記述されており、そのような記述によって作中作の作者・鹿谷は、現実に起こった殺人事件における真犯人・鮫嶋を告発しようとしています。

創作による言語行為、首切断トリック

 本作の叙述トリックが興味深いのは、創作を通じて犯罪の告発という言語行為を達成しようとしているという点です。それは島本理生『あなたの呼吸が止まるまで』などにも現れます。

 本作において、作中作「迷路館の殺人」において死体を持ち去った動機として「血痕を隠すため」という推論が展開されるのですが、結局登場人物に身体検査をしても、誰の外傷も見受けられなかったことから、作中作では宮垣が隠し通路を行き来しつつ殺害を実行したという解決がなされています。

 この推論が、作中作における鮫嶋の性別誤認トリックと相まって、別の様相を帯びてくるというのが作品の根底にあります。鮫嶋が実際には女性だったのなら、現場の出血の原因として生理による出血が考えうるというのです。性別をあえて隠すことで鹿谷は現実の鮫嶋を告発し、真綿で閉め殺そうとするかのようです。

第二次の語りによる特定の言語行為の達成の類例

 第二次の語りによる、その作者の特定の言語行為の達成について、その類例を探っていきます。

 まず最も有名なものにクリスティ『アクロイド殺し』があるでしょう。これは、探偵助手である手記の書き手・ジェームズが犯人となっています。手記の書き手は、探偵の助手を務める役割と自身が犯人であることの隠匿を目的として手記を記述しています。

 また古典では他にJ.D.カー『貴婦人として死す』があります。これは老医師ルークの手記という体裁をとっています。本作ではルークの息子であり真犯人・トムがその手記の中であまり分量を持って記述されていないのですが、それはあくまでもルークの身辺雑記であるため、トムを露ほど疑わぬルークの記述からは、トムに関する描写が希薄になっているのです。

 三津田信三『首無しの如き祟るもの』では、作中作「媛首山の惨劇」が発展して『首無しの如き祟るもの』が成立したという体裁になっています。作中の事実をもとに作中作「媛首山の惨劇」をものしたのは「媛之森妙元」なる女性ですが、彼女は「媛首山の惨劇」を書いている途中に「媛首山の惨劇」にも登場する江川蘭子(になりすました毬子)に殺され、斧高という少年を犯人に仕立て上げる意図で江川がある時から「媛首山の惨劇」を書き継いだのち、斧高が復讐のために真犯人・蘭子を告発するべく「媛首山の惨劇」において真実を執筆させ、その後蘭子が殺害されるまでに記した遺稿をもとに『首無しの如き祟るもの』が書かれたという構成になっています。

 深水黎一郎最後のトリックは、作中に登場する本作の作者が、パニック障害のような特殊な疾患を抱えた作中の特定個人を殺害する意図を持って出版されたという体裁になっています。

物語世界

あらすじ

 鹿谷門実のデビュー作『迷路館の殺人』。それは作者が巻き込まれた実在の連続殺人事件を基にした推理小説でした。その作品において、推理作家界の巨匠・宮垣葉太郎の還暦の祝賀パーティーに招かれた推理作家、評論家、編集者、そして島田潔でしたが、秘書の井野が現れ、宮垣が自殺したこと、遺書に従い、警察には通報していないことを告げます。宮垣の遺言は、5日後まで、秘書の井野と医師の黒江以外は館を出てはならず、警察に通報してはならない、その5日の間に館に滞在する作家4人は、「迷路館」を舞台とした、自分が被害者となる殺人事件をテーマとした、遺産相続者の審査・選別のための推理小説を執筆しなければならない、最も優れた作品を書いた者に、遺産の半分を相続する権利を与える、というものでした…。

 

 

 

 

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