はじめに
馳星周『不夜城』解説あらすじを書いていきます。
語りの構造、背景知識
ノワール小説
馳星周はノワール小説(Roman noir,Noir fiction)の書き手とされます。
「ノワール」という言葉は、1945年にパリの出版社ガリマールが、犯罪小説レーベル「セリ・ノワール」叢書として使用し、英語圏でも、映画ジャンル「フィルム・ノワール」としてこの語は用いられ、ジャンルとして定着を見せていきます。フィルム=ノワールという呼称はヒューストン監督『マルタの鷹』(ハメット原作)など、ある種の様式を備えた作品に対して46年頃から、セリ=ノワールにあやかって言及するようになったものです。
その後、ノワール小説(Roman noir,Noir fiction)は傾向として犯罪小説のなかでも探偵を主人公とするハードボイルド小説に対して、犯罪者やアウトローを主人公にするジャンルとして、以降定着していきました。傾向としてノワール小説は、ドイツ表現主義やフレンチノワール映画などの文脈を継承する、破滅的で退廃的なアウトローの裏切りと愛と抗争のドラマを描く特徴がありますが、とはいえ両者の区分はそう自明のものではなく、相互に参照関係があるため、ジェイムズ=M=ケイン、ジェームズ=エルロイなど、両方のジャンルの作風に合致するこのジャンルの代表的作家も多いです。
また狭義には暗黒小説と日本語で指すものがフランスのパトリック=マンシェットなどのノワール小説であることがあります。
本作も、ノワール小説らしい、裏切りと愛の物語です。
馳星周の特徴
馳星周は、山田風太郎や大藪春彦、ハメット、エルロイの作品を好み、影響されました。
本作も山田風太郎『忍びの卍』のような、各勢力がそれぞれの思惑のもとしのぎを削り抗争を展開する物語になっています。
ハメット『血の収穫』も、複数のグループが争う中、主人公が機転を利かせてその中でうまく立ち回るプロットがあり、本作への影響が見えます。
物語世界
あらすじ
東京都新宿区歌舞伎町。そこでは中国人たちが勢力争いを繰り広げていました。台湾マフィア、上海マフィア、北京マフィアが三つ巴の抗争を展開します。
日本と台湾のハーフである劉健一は、歌舞伎町で故買屋をしつつ、中国人の裏社会に身を置きます。台湾人の父が亡くなってから、生活に困った母が楊偉民を頼り、彼に言われ北京語を学んで育ちました。楊偉民は、以来育ての親です。
そんなある日、かつての仕事のパートナーである呉富春が歌舞伎町に現れた、と聞きます。
富春は、歌舞伎町を仕切る上海マフィアのボスである元成貴の右腕の男を殺して逃げていました。富春の帰還を知った元成貴は、富春は元相棒の健一のもとに来るだろうと予想し、健一に3日以内に富春を連れてくるよう命じます。
やがて健一の元へ、「夏美」と名乗る女が買って欲しいものがあると取引を持ちかけます。夏美が売りたいものは、呉富春その人で、富春が歌舞伎町へ帰ってきたのは、夏美が助けを求めたからでした。富春を差し出しても自分が助かる見込みはないと感じた健一は、夏美を利用し、富春に元成貴を、別の勢力に富春を殺させようとします。
やがて距離が近づく二人ですが、夏美の正体が富春の実妹、小蓮であると明かされます。楊の裏切りで富春の襲撃は失敗するものの、北京勢が元成貴を殺すことになります。
健一は元成貴の殺し屋である孫淳に捕まるものの小蓮に助けられ、富春も小蓮が殺します。
楊、大富豪の葉老人、上海マフィアナンバー2である銭波との会合で、富春が盗んだ二千万円の返済代わりに小蓮の命を差し出すように言われた健一は、葉老人を殺して、二人で逃亡します。
しかしその後、香港マフィアに売られたことで襲撃された報復にと、北京マフィア崔虎に捕われます。健一を撃って自分だけ助かろうとした小蓮を、健一は射殺し、ことは収まります。
生き残った健一ですが、苦い余韻だけ残ります。
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