はじめに
山田風太郎『忍びの卍』解説あらすじを書いていきます。
語りの構造、背景知識
象徴主義
風太郎は戦前からベタな文学好きで、芥川龍之介(『地獄変』)や鴎外(『阿部一族』)その背景となる象徴主義(リラダン)などからの影響が顕著です。
本作もそうした先達のようなグランギニョルな時代劇を展開していきます
組織と人間
本作も鴎外『阿部一族』のような、組織や制度の中での実践や、そのなかにおける悲劇を展開する内容になっています。
またこうしたデザインは英米のスパイ小説の影響をうかがわせ、組織の不条理に翻弄されるキャラクターの姿を描きます。
本作はさながらル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』を連想させる、組織の不条理のドラマです。
心理劇
本作はさながら谷崎『卍』、ハメット『血の収穫』を連想させるような、心理劇の交錯が見どころです。
物語の中では、主人公の椎ノ葉刀馬、甲賀の百々銭十郎、伊賀の筏織右衛門、根来の虫籠右陣、大老土井大炊頭のそれぞれの思惑が交錯する中で物語が展開されていきます。
最終的にはすべては土井大炊頭の書いた絵だったことが明らかになります。
物語世界
あらすじ
相次ぐ大名の改易に揺れる徳川家光治世。大老である土井大炊頭の近習・椎ノ葉刀馬は、内密に公儀忍び組査察を命ぜられます。伊賀、甲賀、根来三派の対立を憂い、最も優れた一派に絞ることになります。
各忍び組の代表となった忍者と対面した刀馬は、各々の忍法を目の当たりにします。甲賀の百々銭十郎、伊賀の筏織右衛門、根来の虫籠右陣報告でした。報告を受けた大炊頭が選んだのは、刀馬が最も低く評価した甲賀組でした。
根来の代表である虫籠右陣は、伊賀の筏織右衛門を巻きこみ、将軍に再裁定を働きかけようとして失敗します。追いつめられた両名は逐電し、家光の弟駿河大納言徳川忠長に接触し、扇動します。忠長は、右陣と織右衛門の策謀とも知らず、ついに将軍暗殺を黙認します。
しかしこれは大炊頭に察知されます。再度刀馬は、甲賀の代表であった百々銭十郎と共に将軍守護の密命を受け、幕府転覆を阻止すべく右陣織右衛門に挑みます。
刀馬の許婚のお京は、しだいに刀馬の隠密使命における非情さを知り、忠長に惹かれるようになります。
戦いの末、銭十郎は死に、織右衛門は刀馬との一騎打ちにて、残った右陣も捕らわれて殺されます。そして、刀馬は、許嫁のお京に忠長と心中されます。
大炊頭は徳川の将来のため、最初から忠長を処断するのが目的で、刀馬と3人の忍者を争わせていました。すべて大炊頭の計画通りで、公儀忍びを一派に統一し、見込みのある忍びの刀馬の訓練という目的も達成しました。
刀馬はそれを知り、自ら腹を切り、ささやかな抵抗をするのでした。
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