始めに
マシスン『地球最後の男』解説あらすじを書いていきます。
語りの構造、背景知識
吸血鬼もの
本作は吸血鬼もののホラー作品です。
吸血鬼を描く作品は昔からたくさんありますが、本作が後続の作品に影響したのは、伝統的には超自然的な存在として描かれてきた吸血鬼を、科学によって説明し、ウィルスによって伝染する存在として描いた点でした。
もともと吸血鬼は民間伝承の段階で病や疫病のメタファーとしてのテイストが濃厚でしたが、本作はメタファーではなく、病によって伝染する吸血鬼を描きました。
『地球最後の男』では、「吸血鬼」はゾンビと重なる部分が多く、のちの映画などに影響しました。
ポストアポカリプスもの
ポストアポカリプスものとして、マシスンの先駆に、疫病が蔓延する世界で免疫力のある人物を描いたメアリー=シェリーの小説『最後の人間』があります。
『最後の人間』では他の動植物には一切被害を及ぼさない謎の疫病により、人口は激減します。エイドリアンが残った人類の指導者となり、イギリスを捨てて南へ逃げるために移動しますが、生き残りは主人公ライオネル、エイドリアン、レイモンド卿の娘の3人だけになり、3人はギリシャへ渡ろうとしてアドリア海の航海中に嵐に見舞われ、ライオネルだけが漂着し、ライオネルが最後の人間 としてこれまでの経緯を書き、それがなぜか過去へと渡ります。
本作はそうした疫病によるポストアポカリプスものに対して、吸血鬼の要素を加えています。
怪物の正体
本作のオチは有名ですが、主人公のネヴィルが、人類の生き残りとして孤独に吸血鬼と戦ううち、吸血鬼ウィルスを克服した新人類が現れ、新人類にとっての怪物が吸血鬼ハンターのネヴィルだった、というラストになっています。
本作のブラックコメディは、その後ロメロなどのスプラッターホラーに継承されます。
また本作のパロディ藤子『流血鬼』も有名です。
物語世界
あらすじ
1970年代、人間を死なせ吸血鬼として甦らせる吸血ウイルスが、世界中に蔓延します。人類は滅び、ただ一人生き残ったロバート=ネヴィルは、夜な夜な自分の家の周囲に集う吸血鬼たちと孤独感に悩み、昼間は眠る吸血鬼たちを殺して杭を打ち込み、生活必需品の確保と、吸血鬼退治の方法を研究します。
そんなある日、ネヴィルは太陽の下で活動する女性を発見し、自宅に引きずり込みます。ルースと名乗る女はやがて自分が新人類のスパイであること、そしてネヴィルにここから逃げるように話して姿を消すものの、ネヴィルは自宅に留まります。
そしてある夜、暴走族のような集団がネヴィル邸を襲撃し、周囲の吸血鬼たちを殺戮し、抵抗するネヴィルを痛めつけて連行します。彼らは吸血ウイルスに冒されるものの生き残った新人類でした。
ネヴィルは、新人類が処刑の際、自分を見る目に恐怖が宿っていること、そして彼らにとって、自分こそが「人々」が寝静まった頃に街を徘徊し、「人々」を殺戮する伝説の怪物(Legend)だったと気が付きます。
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