始めに
道尾秀介『ラットマン』ネタバレ解説を書いていきます。未読の方向けのレビューはこちら。
語りの構造、背景知識
語りの構造
語り手の中心は、姫川亮です。姫川の見聞きしたことが主に展開されます。
部分的に他の登場人物に視点を設定するパートもあります。
物語は過去の姫川姉の死亡事件と、現在のひかりの死亡事件が中心です。それぞれの事件は関係ないのですが、その各当事者の誤解による真相の混線という構造が共通して、それを解釈が文脈に依存するという心理学の文脈効果の例である「ラットマン」をモチーフに物語を展開しています。
姫川姉の事件
23年前に姫川の姉が死亡した事件がありました。真相は、姫川姉が家の2階から転落したことによる事故死なのですが、関係者のそれぞれが事件の真相を誤認して、それぞれの思惑から行動しています。
姫川父は、ストレスの解消に妻が姫川父の連れ子である娘を虐待しているのを知っていて、抑止力になればと自宅でガンの療養をしました。娘が死亡し、妻の服に赤の付着しているのを見て、妻が殺したと考えます。妻を殺人犯にすると亮が不憫なので、娘の死を事故死に見せかけようとしました。
姫川母は、夫の連れ子である娘を虐待していましたが、娘との関係を修復したいと願っていて、クリスマスプレゼントを用意していました。しかしクリスマスに娘は2階から転落死し、これを娘が虐待を原因に自殺したものと勘違いし、母は罪悪感に悩みます。しかし、単なる事故死でした。
姫川は母が殺害し、父が隠蔽工作をしたと考えたものの、母の服についていた赤は絵の具だと気づき、姉は事故死だと知ります。
ひかり死亡事件
スタジオの倉庫の中でひかりが死亡していた現在の事件は、スタジオの経営者の野際が犯人ですが、こちらも関係者のそれぞれが事件の真相を誤認して、それぞれの思惑から行動しています。またひかりの子供は交際相手の姫川の子ではなく、野際の子供です。
姫川はひかりの妹の桂が殺害したと考えました。ひかりと交際していたものの、桂に好意を抱いていた姫川は桂をかばうため事故死を偽装しました。
友人の竹内と谷尾は、姫川に疑問を持ち、読者にも2人のパートが視点として部分的に提供され、姫川への疑念のミスリードをします。
桂は姫川が自分のために姉のひかりを殺害したと考えていました。途中、ひかりの死後に、姫川と桂が逢瀬になる場面があり、そこにおいて姫川は彼女が犯人で庇っているつもりで、桂は姫川が犯人と捉えて会話が展開されています。そこでは読者の視点からすると、姫川が犯人のように映ります。
野際はひかりと肉体関係を持っていて、スタジオの経営がうまくいっていない野際は自殺を考え、ひかりに心中するよう頼むものの断られ、逆上した野際はひかりを殺害します。その後自殺する決心がつかず、スタジオに戻ると殺害現場の様子が変わっていて(桂をかばうための姫川の工作)、バンドメンバーの誰かが自分をかばって事故に見せかけたのだと勘違いした野際は自首するタイミングを逃しました。最終的に、刑事隅島に真相を見抜かれ逮捕されます。
物語世界
あらすじ
結成14年のアマチュアロックバンドのギタリスト、姫川亮は、ある日、練習中のスタジオで不可解な事件に遭遇します。
次々にバンドメンバーの隠された素顔が浮き彫りになり、現在の事件は姫川の過去の姉の死の事件と重なりながら展開されていきます。
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