始めに
始めに
西澤保彦『七回死んだ男』ネタバレ、解説を書いていきます。
語りの構造、背景知識
語り手の事実誤認
渕上零治郎は語り手の久太郎が同じ日を九回繰り返す「反復落とし穴」と呼ばれるタイムループにはまっている最中に何度も死にますが、それぞれ状況が異なっています。また死因は基本的には飲酒過剰が原因となっていて、それぞれそれを殺人のように装った犯人が異なっています。繰り返されたのは本当は1月3日ですが、終盤に友理に説明してもらうまで久太郎は1月2日が繰り返されていると勘違いしていました。現実の1月3日を「1月2日の繰り返し」に見せかけるトリックがここに仕掛けられています。
下記にある通り「反復落とし穴の2周目以降で違う行動をとれるのは久太郎だけ。1周目と違う現象が発生したらそれは全て久太郎の行動に起因する」というルールがあるため、1月2日に零治郎が生存していたこと、1月2日が繰り返されていると錯覚(実際には3日)したことから、自分の行動に問題があったと考え、奮闘します。2日に久太郎は祖父の酒盛りに付き合い酔ったまま自宅に帰るために車に乗り、すぐ寝てしまうものの、祖父に呼び止められてもう一泊するように勧められてもう一泊していたことから、久太郎は自宅に帰ったと思っていたのに祖父の屋敷の屋根裏部屋にいたため反復落とし穴が起きてたと勘違いしました。
頻度の誤認
また久太郎はこのような勘違いをしていたのに、ちょうど(久太郎認識で)九回目のループで「1月2日」(実際は1月3日)が終わるのですが、1月3日の二週目に久太郎が死んでいたためループを認識できていなかったという展開になっています。起こったはずのことを語り手が記述できていないという点で、ここでは語られる事象の頻度が誤解させられる叙述トリックになっています。
物語世界
あらすじ
高校生・大庭久太郎は、しばしば時間の「反復落とし穴」にはまり込み、同じ一日を九回繰り返す特異体質でした。親族一同が集まった新年会、莫大な財産を持つ久太郎の祖父・渕上零治郎は遺言状に関する重大発表をします。翌日、零治郎との酒盛りで泥酔した久太郎だったが、夜中に目覚めると「反復落とし穴」にはまり込んでいます。かくして、「オリジナル」と同じような一日が始まる……はずだったが、なぜか零治郎が殺されます。祖父を救うため、一日がリセットされるたびに手を尽くす久太郎。
1.反復落とし穴は9回繰り返される。2.反復落とし穴はキュータロウ以外の人間は認識できない。3.反復落とし穴は9周目の出来事が決定版となる。4.反復落とし穴の2周目以降で違う行動をとれるのはキュータロウだけ。1周目と違う現象が発生したらそれは全てキュータロウの行動に起因する、というのが設定のルールです。
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