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綾辻行人『十角館の殺人』解説、ネタバレ

あ行の作家
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始めに

始めに

 今日は綾辻行人『十角館の殺人』について解説レビューを書いていきたいと思っています。

語りの構造、背景知識

叙述トリックの代表作。二人一役

 本作は叙述トリックを展開した国産ミステリの初期の作品です。ナラトロジーからの叙述トリック整理の記事を参考にしていただけると助かりますが、本作はもっぱら異質物語世界の語り手(いわゆる三人称)によって物語られ、複数の人物に焦点化が図られます。視点人物は変遷するものの、真相を明かす内的独白は巧妙に隠されています。

本作の語りが隠匿するのは、ヴァン=ダインと守須恭一が同一人物であることで、それによる二人一役トリックです。また島と本土が隔絶されていると見せかけることで、本土にいる守須のアリバイを担保します。

本作の一人二役の特徴

 類似の叙述トリックによる一人二役の展開を見ていきます。同様の手法は貫井『慟哭』などにも見られます。本作品では二人の視点人物のAとBが同一人物であるという事実が伏せられ、それによってAのアリバイを担保しています。本作もそれと同様に、二人一役トリックによって、島にいる守須のアリバイを担保します。また『Another』にも同様の手法が見られます。

 また異質物語世界の語り手が、焦点化がなされる人物の正体について誤認させるトリックは我孫子『殺戮に至る病』などにも見えます。

 また、本作の渾名の利用による登場人物の性質の誤認の手法は殊能『ハサミ男』、樹林伸『電脳山荘殺人事件』にも見えます。

ゴシックホラー、新本格

 「館」シリーズは綾辻を代表する作品になっており、そのゴシックホラー風のロケーションが印象的です。古典主義的装いはウォルポール『オトラント城の奇譚』などからあるモードの様式を踏まえるものですが、その独特の作風はなかなか人を選ぶ部分があります。

 新本格ミステリを代表する作家には他に法月綸太郎もいますが、しばしば二人とも口撃の対象ともなります。実際、法月はエラリー=クイーンの悪いところを継承しているというか、ゴツゴツしたリアリズムベースのドラマで、ウェルメイドなコミックオペラを志向するクリスティ、外連で魅せるJ=D=カーのゴシック作品と比べると、随分読み物として劣る印象も受けます。

 綾辻作品はJ=D=カーの外連みとちかい作風ですが、カーと比べるとそのグランギニョルな描写がフォロワーの横溝正史のような陰惨さで、またスタイルとしてもやや洗練されておらず、デパルマ監督のフィルムを思わせます。けれどもそうした欠点を逆手に取った『どんどん橋、落ちた』のようなセルフパロディ小説もあり、才能は卓越しています。『館』シリーズも玉石混交とは言えますが、奇想と遊びに満ちた楽しい作品群です。

 

物語世界

あらすじ

 1986年3月26日。大分県K**大学・推理小説研究会の一行は、角島と呼ばれる無人の孤島を訪れます。半年前に凄惨な四重殺人事件が発生して焼け落ちた「青屋敷跡」と、奇抜な十角形のデザインをした「十角館」がそこにあります。島に唯一残っているその建物で、彼らは1週間の合宿をします。
 その頃、本土では研究会に宛てて、かつて会員であった中村千織の事故死について告発する怪文書が送られていました。怪文書を受け取った1人である江南孝明は、中村千織の唯一の肉親である中村紅次郎を訪ねます。そこで、紅次郎の大学時代の後輩である島田潔と出会った江南は、一緒に事件の真相を探ろうと調査を開始し、ミス研メンバーの守須恭一に話を聞きます。

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