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小野不由美『残穢』解説レビュー!

小野不由美
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始めに

始めに

小野不由美『残穢』についてレビューを書いていきます。

語りの構造、背景知識

M.R.ジェイムズ風の実録タッチのホラー

 本作品の特徴は、M.R.ジェイムズを思わせる実録タッチの語り口です。白石晃士監督『ノロイ』、石原慎太郎『我が人生の時の時』、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』シリーズ、三津田信三の『作家』シリーズなど、この手の実録タッチの内容のホラーは多いです。

 実録タッチのホラーというのはおよそ「物語世界について、そこに現実世界と共通の存在者を内包することなどで、『物語世界内の事実が虚構である』という慣習的認識に疑念を挟ませ読者を恐怖させる意図を持って作者が創造した作品」くらいのニュアンスです。こうした演出スタイルというのは、読者に恐怖を抱かせる意図を持って作者がこしらえる「ホラー」というジャンルにおいて相性がいいわけです。作中の恐怖を抱かせる存在が実在していないより実在する方が、より読者にとって恐ろしいものであるのは自明ですから。

原作と映画版

 本作は映画化もなされておりますが、映画化と違って本作においては、霊的な存在も直接危害を加えるべく現れるわけではありません。朦朧とした語り口のなか、過去に起こったことが掘り下げられるなかで、穢れによる狂気の伝搬が描かれて行きます。

タイトルの意味

 本作では、怪異の起点となるのは、明治期に起こった奥山家の炭鉱の事故です。これは黒い人影、怨み声、呻き声として現れます。この呪いに感化された吉兼友三郎(奥山家の子孫の嫁ぎ先の男)、中村美佐緒に殺された乳児、縊死した高野夫人も怪異として現れます。

 友三郎は霊による幻聴に苦しみ、家族に攻撃するとか、家に放火しようとしたため、座敷牢に監禁され、床下を徘徊するようになり、霊となった後もそのように振る舞います。

 中村美佐緒は植竹工業焼失事故(炭坑の霊の仕業か)の関係者です。

 高野夫人は吉兼家の長屋跡地に越してきた女性で、彼女が「畳を掃くような音」の正体です。

 このように怪異の伝搬が描かれます。

物語世界

あらすじ

 京都市で暮らす「私」は小説家です。嘗ては少女向けにライトノベルやホラー小説を執筆していて、そのあとがきで読者に「怖い話」の募集をしていました。その縁で、嘗ての読者から怪談を実体験として相談されたことがある。

 2001年末、嘗ての読者で「岡谷マンション」の204号室に住む30代の女性・久保から手紙が届きます。手紙によると、仕事部屋の背後の寝室から「畳を掃くような音」がするそうです。翌年、久保から改めて電子メールが届きます。相変わらず寝室から右に左に畳を擦るような音が続いたため、振り返っると着物の帯のような平たい布が目に入ったそうです。その話に「私」は奇妙な既視感を覚えます。屋嶋という女性から1999年7月に受け取った手紙にも、自宅マンションである401号室の寝室から時折聞こえる床を掃くような音に悩まされている旨書いてありました。久保と屋嶋の住所は同じマンションだったため「私」は彼女らが遭遇しているのは同じものなのではないだろうかと考えます。

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