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麻耶雄嵩『螢』解説、ネタバレ

ま行の作家
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始めに

始めに

 麻耶雄嵩『螢』について解説、レビューを書いていきます。

語りの構造、背景知識

等質物語世界のAによる語りを、異質物語世界の焦点化人物Bの語りと誤認させる

 本作品の特徴は、等質物語世界の長崎による語りを、異質物語世界の焦点化人物を諫早とする語りに見せかけます。

 類例のものには東野『ある閉ざされた雪の山荘で』があり、こちらは語り手の存在を隠匿することが意図されているのに対して、本作品は長崎の存在自体は明記されています。この語り手の誤認トリックは、もっぱら松浦の性別誤認トリックと結びついています。長崎が松浦の性別を女性と認識していることが、登場人物たちの認識に関する読者からの認識について誤解を招いています。

第二次の語り、焦点化の実験

 そもそもナラトロジーにおける焦点化(視点)の構造の分類は、もっぱら読者に提供される情報の量に注目するところから由来します。例えば特定人物Aに内部焦点化を図る作品というのは、Aという視点人物を物語世界についての認識の窓口とすることで提供される情報を限定し、それによってプロットの因果的連なりの構造について隠匿し、サプライズを準備することが可能になっています。

 本作について考えるとむしろ語りの構造で特徴的なのは、登場人物紹介というメタなテクスト(第二次の語りに準ずるもの)によって、物語世界の特定人物の性別についての事実が読者に対して自明のこととして示されているのにも関わらず、語り手の長崎を除けばおよそ解決編に至るまではみな、松浦の性別と本名について誤認しています。一般的な叙述トリックにおいては、語りの実践によって物語世界内事実について、登場人物にとっては所与の事実とされる事柄が読者に対して隠匿されることがしばしばある一方、本作では読者に対して自明である事柄が登場人物にとって隠匿されているのに加え、そのような認識的齟齬が登場人物と読者の間にあるという事実が隠匿されています。

物語世界

あらすじ

 オカルトスポット探険サークルの学生六人は京都山間部の黒いレンガ屋敷・ファイアフライ館に肝試しに来ました。ここは十年前、作曲家の加賀螢司が演奏家六人を殺した場所です。そして半年前、一人の女子メンバーが未逮捕の殺人鬼ジョージに惨殺されています。そんな中で、事件は起こります。

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