始めに
叙述トリックをナラトロジーから整理していきます。
時間に関するもの
順序
・依井貴祐『夜想曲』:時系列の順序の誤認により、死んだはずの人間が犯人となる。
・乾くるみ『イニシエーション=ラブ』『塔の断章』:時系列の順序の誤認により、前者は語り手を誤認させ、後者は被害者と犯人を誤解させる。
持続
・西澤保彦『七回死んだ男』:主人公が意識を喪失していた期間の出来事が省略されている。
頻度
・麻耶雄高「収束」(『メルカトルかく語りき』):物語世界内で起こりえた出来事のシミュレーションを作中内で三度起こったように見せる。
叙法に関するもの
焦点化
・岡島二人『そして扉が閉ざされた』:等質物語世界の語り手のモノローグによるミスリード。自分が犯人だと自覚していない。
・麻耶雄高『螢』:登場人物紹介(異質物語世界の語り)により、物語世界内の特定の事実について、読者の方が登場人物よりも確かな情報をもっている。また、焦点化がなされている人物を誤認させる。
・綾辻行人『十角館の殺人』異質物語世界の語り手が、物語世界内の事実について語りで誠実に読者に伝えていない。
・我孫子武丸『殺戮に至る病』:焦点化がなされる人物の誤認。
・伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』:焦点化がなされる等質物語世界の語り手が、第三者の正体を誤認している。
・小泉喜美子『弁護側の証人』:焦点化がなされる等質物語世界の語り手が、状況について読者に適切な認識をさせるに誠実な語りをしていない。
・京極夏彦『姑獲鳥の夏』:物語世界内の焦点化がなされる等質物語世界の語り手が、物語世界内の事実を認識できていない。
・アガサ=クリスティ『アクロイド殺し』:第二次の語り手において(手記)、焦点化がなされる等質物語世界の語り手が、事実を記述しつつ適切な認識のためには極めて不誠実な記述をしている。
距離
・乾くるみ「三つの質疑」(『嫉妬事件』):会話文が実際の発話の意図、内容と一致していない。
態に関するもの
語りの水準
・竹本健治『匣の中の失楽』:第二次の語りを第一次に見せかける。またどちらが第一次の語りでどちらが第二次の語りかわからない。
語りの時間
・歌野昌午『葉桜の季節に君を想うということ』:語られる過去と現在の時間的隔たりの誤認。
人称
・麻耶雄嵩『螢』等質物語世界の語りを異質物語世界の語りと見せかける
・東野圭吾『ある閉ざされた雪の山荘で』:等質物語世界の語りを異質物語世界の語りと見せかける
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